母屋と離れが同じ敷地に建ち、
親は離れで寝泊まりし、食事や入浴は母屋で行っていた。
母屋で起居する子が宅地全体を相続するとき、
小規模宅地等の特例をどう組み立てるかを整理したケーススタディです。
主軸生計一親族の居住用宅地等(租税特別措置法69条の4第3項2号ハ)として組み立てるのが本命です。
食事を共にし、生活費を渡し、住民票も同一という事実関係は、
「生計を一にしていた」ことを裏付ける方向に働きます。
子が居住していた母屋の敷地と、庭・駐車場等の共用部分のうち子の利用部分について、
330㎡を限度に80%減額の適用を受けられる可能性が相応にあると考えられます。
予備同居親族(同号イ)としての構成も、
「被相続人の生活機能の中心は母屋にあった」という実質論として並行準備する価値があります。
ただし後述のとおり、光熱費の負担実態の確認、毎月の金銭の性格の整理、対象面積の実測確認が前提条件になります。
「生計を一にしていた」の定義は措置法にはなく、
実務では所得税基本通達2-47の考え方が参考とされます。
裁決例では、別居の親族について次の基準が示されています(国税不服審判所平成20年6月26日裁決・裁決事例集No.75)。
少なくとも居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の全部又は主要な部分を
共通にしていた関係にあったことを要する
同一の家屋で起居している親族は、
明らかに互いに独立した生活を営んでいる場合を除き生計一と扱われます(所基通2-47(2))。
別棟で起居する本ケースはこの推定の直接適用ではないため、
費用の共通性を事実で積み上げる立証が軸になります。
| 要素 | 本ケースの事実 | 評価 |
|---|---|---|
| 食費 | 食事はすべて配偶者が母屋で調理し、三人で共にしていた | 共通の方向 |
| 居住費 | 子は被相続人所有とみられる母屋に無償で居住 | 共通の方向 |
| 光熱費 | 被相続人が負担していたとみられる(要確認) | 確認が前提 |
| 金銭の流れ | 子が毎月定額の生活費を渡し、家計に合流 | 共通の方向 |
| 住民票 | 三人とも同一住所 | 補強材料 |
同居親族(措法69条の4第3項2号イ)の要件は、
「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物」に居住していたことです。
形式的には、渡り廊下のない別棟二棟を一棟の建物と扱うことはできず、
被相続人の居住建物が離れと認定されると同居は否定されます。
区分所有登記のない二世帯住宅の緩和(措令40条の2第4項・第13項)も同一棟内の話であり、
別棟には及びません。
もっとも、居住の用の判定は、日常生活の状況、入居の目的、建物の構造及び設備の状況、
生活の拠点となるべき他の建物の有無等を総合勘案して行うのが実務の取扱いです。
離れには浴室がなく台所も使われておらず、
被相続人は食事・入浴という生活の基幹部分を毎日母屋で行っていました。
そこで、被相続人の居住の用は母屋にも及んでいたと構成する余地があります。
この構成が認められれば、母屋に起居していた子は同居親族に該当し得ます。
被相続人自身が設備のない側で寝泊まりしていたという事情があるため、
この構成単独に依拠するのはリスクが高く、生計一を主軸に予備として準備するのが安全です。
筆の数は登記上の区分にすぎず、特例は利用単位で判定します。
二棟と庭・駐車場が自家用として一体利用されていれば、
敷地全体が「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当し得ます(措置法通達69の4-7)。
ただし、特例の対象は取得者の要件を満たす部分に限られます(措令40条の2第4項)。
生計一構成のみで進める場合、
対象部分が330㎡以上あるかどうかで減額額が大きく変わるため、
地積測量図・現況利用図での面積確認が必須です。
80%減額は措法69条の4第1項1号、限度面積330㎡は同条2項2号によります。
生計一親族が居住する被相続人所有の家屋は、
「無償で借り受けていたものに限る」とされています(措置法通達69の4-7(1))。
毎月の金銭が建物の使用対価と認定されると、この前提が崩れます。
金銭は食費・光熱費の拠出であり建物の対価ではないことを一貫して整理し、
申告書類や説明で「家賃」という言葉を使わないことが重要です。
生計一構成のみ成立の場合に対象面積が不足するときは、
遺産分割を見直し、離れの敷地相当部分(共有持分でも可)を配偶者が取得する選択肢があります。
配偶者は取得のみで適用でき、継続要件はありません。
ただし二次相続の負担増との兼ね合いがあるため、
一次・二次通算の税額シミュレーションを行ったうえでの判断が必要です。
外形上は別棟であり税務署側の疑義を招きやすい類型のため、
生活実態(食事・入浴・介護・生活費の流れ)を時系列と図面で説明する事情説明書を
申告書に添付することを推奨します。