税務ケーススタディ

同一敷地内の別棟二棟に分かれて暮らす親子と
小規模宅地等の特例(生計一親族の居住用)

母屋と離れが同じ敷地に建ち、
親は離れで寝泊まりし、食事や入浴は母屋で行っていた。
母屋で起居する子が宅地全体を相続するとき、
小規模宅地等の特例をどう組み立てるかを整理したケーススタディです。

想定するケース

宅地複数筆だが一体利用(あわせて600㎡程度)。上に建物が二棟(母屋と離れ)、ほかに庭と自家用の駐車場スペースがある
母屋台所・浴室のある建物。子が寝泊まりし、家族の食事・入浴もここで行われていた
離れ築年数の古い建物。浴室がなく、台所は簡易なものがあるのみで使われていない。被相続人と配偶者が寝泊まりし、晩年の介護もここで行われていた
二棟の関係渡り廊下はなく、数メートル離れて隣接する別棟
生活の実態食事は配偶者が母屋で作り、被相続人・配偶者・子の三人で共にしていた。子は食費等の生活費として毎月定額を渡していた。三人の住民票上の住所は同一
取得の予定宅地と建物はすべて子が相続により取得する予定

結論

主軸生計一親族の居住用宅地等(租税特別措置法69条の4第3項2号ハ)として組み立てるのが本命です。

食事を共にし、生活費を渡し、住民票も同一という事実関係は、
「生計を一にしていた」ことを裏付ける方向に働きます。
子が居住していた母屋の敷地と、庭・駐車場等の共用部分のうち子の利用部分について、
330㎡を限度に80%減額の適用を受けられる可能性が相応にあると考えられます。

予備同居親族(同号イ)としての構成も、
「被相続人の生活機能の中心は母屋にあった」という実質論として並行準備する価値があります。

ただし後述のとおり、光熱費の負担実態の確認、毎月の金銭の性格の整理、対象面積の実測確認が前提条件になります。

生計一の判定基準

「生計を一にしていた」の定義は措置法にはなく、
実務では所得税基本通達2-47の考え方が参考とされます。

裁決例では、別居の親族について次の基準が示されています(国税不服審判所平成20年6月26日裁決・裁決事例集No.75)。

少なくとも居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の全部又は主要な部分を
共通にしていた関係にあったことを要する

同一の家屋で起居している親族は、
明らかに互いに独立した生活を営んでいる場合を除き生計一と扱われます(所基通2-47(2))。
別棟で起居する本ケースはこの推定の直接適用ではないため、
費用の共通性を事実で積み上げる立証が軸になります。

このケースの当てはめ

要素本ケースの事実評価
食費食事はすべて配偶者が母屋で調理し、三人で共にしていた共通の方向
居住費子は被相続人所有とみられる母屋に無償で居住共通の方向
光熱費被相続人が負担していたとみられる(要確認)確認が前提
金銭の流れ子が毎月定額の生活費を渡し、家計に合流共通の方向
住民票三人とも同一住所補強材料

注意すべき方向の材料

毎月の生活費が実費に比べて低額とみられると、「小遣い程度の授受で生計は別」と認定される余地が残る
光熱費を子が自己名義で全額負担し、食材も別購入という実態が出てくると、生活費が別管理として生計一が否定された裁判例(横浜地裁令和2年12月2日判決・東京高裁令和3年判決)の方向に働く
住民票の同一は補強材料にとどまり、決め手にはならない(実態が優先される)

同居構成という予備ルート

同居親族(措法69条の4第3項2号イ)の要件は、
「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物」に居住していたことです。

形式的には、渡り廊下のない別棟二棟を一棟の建物と扱うことはできず、
被相続人の居住建物が離れと認定されると同居は否定されます。
区分所有登記のない二世帯住宅の緩和(措令40条の2第4項・第13項)も同一棟内の話であり、
別棟には及びません。

もっとも、居住の用の判定は、日常生活の状況、入居の目的、建物の構造及び設備の状況、
生活の拠点となるべき他の建物の有無等を総合勘案して行うのが実務の取扱いです。
離れには浴室がなく台所も使われておらず、
被相続人は食事・入浴という生活の基幹部分を毎日母屋で行っていました。
そこで、被相続人の居住の用は母屋にも及んでいたと構成する余地があります。
この構成が認められれば、母屋に起居していた子は同居親族に該当し得ます。

被相続人自身が設備のない側で寝泊まりしていたという事情があるため、
この構成単独に依拠するのはリスクが高く、生計一を主軸に予備として準備するのが安全です。

対象になる宅地の範囲と面積

筆の数は登記上の区分にすぎず、特例は利用単位で判定します。
二棟と庭・駐車場が自家用として一体利用されていれば、
敷地全体が「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当し得ます(措置法通達69の4-7)。

ただし、特例の対象は取得者の要件を満たす部分に限られます(措令40条の2第4項)。

生計一構成のみが成立する場合、対象は子の居住の用に供されていた部分(母屋の敷地と、庭・駐車場等の共用部分のうち子の利用部分)に限られ、離れの直下等は対象外となる。共用部分は建物床面積比等の合理的基準で区分する
同居構成も成立する場合、敷地全体から330㎡を選択でき、評価単価の高い部分から優先して選択する

生計一構成のみで進める場合、
対象部分が330㎡以上あるかどうかで減額額が大きく変わるため、
地積測量図・現況利用図での面積確認が必須です。

80%減額は措法69条の4第1項1号、限度面積330㎡は同条2項2号によります。

継続要件と申告手続

生計一構成では、取得した子が相続開始時から申告期限まで宅地を引き続き保有し、かつ相続開始前から申告期限まで引き続き自己の居住の用に供していることが必要(措法69条の4第3項2号ハ)。申告期限までの売却・転居・賃貸化はできない
離れの取壊し等の現況変更も、事実認定の基礎を損なうため申告期限までは避けるのが安全
申告期限までに宅地の遺産分割を確定させる(未分割の場合は申告期限後3年以内の分割見込書を添付)
期限内申告書に特例適用の記載と計算明細・添付書類が必要(同条7項)

リスクと対策

毎月の金銭が「家賃」と認定されるリスク

生計一親族が居住する被相続人所有の家屋は、
「無償で借り受けていたものに限る」とされています(措置法通達69の4-7(1))。
毎月の金銭が建物の使用対価と認定されると、この前提が崩れます。
金銭は食費・光熱費の拠出であり建物の対価ではないことを一貫して整理し、
申告書類や説明で「家賃」という言葉を使わないことが重要です。

対象面積が330㎡に届かないリスク

生計一構成のみ成立の場合に対象面積が不足するときは、
遺産分割を見直し、離れの敷地相当部分(共有持分でも可)を配偶者が取得する選択肢があります。
配偶者は取得のみで適用でき、継続要件はありません。
ただし二次相続の負担増との兼ね合いがあるため、
一次・二次通算の税額シミュレーションを行ったうえでの判断が必要です。

確認しておきたい事項

1水道光熱費の契約名義と支払口座(最優先。メーターや契約が二棟で一本化されていれば一体利用の補強材料にもなる)
2二棟の建物の登記上の所有者(被相続人以外の所有であれば、無償要件の掛かり方が変わり検討の前提が変わる)
3毎月の生活費の授受記録(通帳の出金記録等。名目は一貫して生活費の拠出と整理する)
4二棟の間取り図と現況写真(離れに浴室がないこと、台所が未使用であること、二棟の位置関係)
5介護記録(介護保険の利用票、ケアマネジャーの記録等)
6住民票・戸籍の附票、公図・地積測量図・現況利用区分図、固定資産税課税明細

外形上は別棟であり税務署側の疑義を招きやすい類型のため、
生活実態(食事・入浴・介護・生活費の流れ)を時系列と図面で説明する事情説明書を
申告書に添付することを推奨します。